双曲幾何 — 平行線が破れる
ポアンカレ円板では、円板の内側を無限に広い宇宙とみなす。直線(測地線)は、円板の縁に直角に交わる円弧になる。縁に近づくほど距離が引き伸ばされて、有限の円板に無限が詰まる。この円板の上では、一本の直線とその外の一点に対して、交わらない直線が何本も引ける。ユークリッドの平行線公準が破れる。
ポアンカレ円板は双曲平面のモデルの一つで、円板の内部の点を双曲的な点、円板の縁(無限遠)に直交する円弧を双曲的な直線とする。円弧が直線(測地線、二点間の最短路)になるのは、円板の中心から縁へ向かうほど計量が 1 / (1 - r²) のように発散し、縁に近い領域を通る道がひどく長くなるため。最短路は縁を避けて中心側へ膨らむ円弧を描く。この円弧が、縁に直交する円。エッシャーの Circle Limit は、この円板の縁に無限小のタイルが詰まっていく様子を絵にしたもの。
{p,q} タイリングは、各頂点に q 枚集まる正 p 角形で円板を敷き詰める。中心に正 p 角形を一つ置き、その辺にあたる測地線を作る。円板に直交する円なので、中心からの距離の二乗が 1 + 半径² になる円。{7,3} の中心七角形について、七本の辺の測地線を円板に重ねている。縁を回すと、辺の円弧が縁に直角を保ったまま回る。
七本の円弧が縁に直角に当たり、中心に七角形のセルを囲む。r0sq = cos(angP + angQ) / cos(angP - angQ) が中心多角形の頂点の半径で、p と q の組だけからセルの大きさが決まる。クリップで円板の中だけに描いている。各辺の測地線は、その辺を境に隣のセルへ折り返す鏡になる。一本の鏡を選び、他の測地線をその鏡で円反転すると、鏡の向こうに隣のセルの辺が立つ。
円反転による鏡映は、円板を保つメビウス変換の生成元になる。中心 m 半径 mr の鏡に対し、別の円(中心 g、半径 gr)を反転した像は、denom = |g - m|² - gr²、scale = mr² / denom として中心 m + (g - m)·scale、半径 |scale|·gr の円になる。円板に直交する円どうしの反転は、また円板に直交する円に写る。だから測地線を反射すると測地線が返り、セルの辺がセルの辺へ移る。
太い一本が反射に使う鏡で、薄い七本が中心セルの辺。invertGeodesic で残り六本をその鏡に通すと、鏡の向こう側に隣セルの辺が現れる。反射した円弧も縁に直角を保つ。これを生まれたセルにも繰り返すと、タイルが鏡から鏡へ伝って増える。重複を弾きながら数段反射を回し、得た測地線をぜんぶ描くと、円板が {7,3} のタイルで埋まる。
中心の七角形から外へ、タイルが縁に近づくほど小さくなって、有限の円板に無限のタイルが収まる。円反転が、タイルを複製する唯一のエンジンになっている。seen で同じ円弧を弾き、g.r > 6 で円板から外れた像を捨てて、反射の連鎖が発散しないように抑えている。平面のタイリングは三角形・正方形・六角形しか敷き詰められないが、曲がった空間では {7,3}(七角形が三枚ずつ集まる)のような、平面では不可能な組み合わせが成り立つ。