曲がった面に敷き詰める
各頂点に正多角形を隙間なく集めて平面を周期的に埋めるとき、許される組み合わせは正方形・正三角形・正六角形の三通りしかない。面そのものを負に曲がった双曲面に取り替えると、平面では成立しなかった組み合わせのタイリングが埋まる。基本領域を反射で複製する筋は同じで、複製の道具が直線の折り返しから円弧(測地線)の反転に変わる。
ポアンカレ円板は、双曲平面を有限の円の中に写したモデル。双曲面での「直線」(測地線)は、境界円に直交する円弧として現れる。{p,q} タイリングは、p角形が各頂点に q枚集まる敷き詰めで、ユークリッド平面では (p-2)(q-2)=4(正方形 {4,4}・三角形 {3,6}・六角形 {6,3})しか許されないが、(p-2)(q-2)>4 を満たす無数の組み合わせ({7,3} や {5,4} など)が双曲面では成立する。辺の測地線に関する鏡映の繰り返しがタイル全体を生成し、その群は無限個の元を持つ(クライン群)。エッシャーの「Circle Limit」連作がこのモデルそのものを使っている。
{p,q} の中心 p角形は、半径 r0 の円周上に頂点が 2π/p 刻みで並ぶ。r0 は A = π/p、B = π/q から cos(A+B)/cos(A−B) の平方根で決まる。隣り合う頂点を結ぶ辺は、双曲面では直線でなく境界円に直交する円弧になる。二つの頂点を通り、単位円と直交する円の中心 (gx, gy) と半径 gr を求めて、その円弧を境界の内側に描く。p本の辺を測地線として引き、ゆっくり回す。
p本の円弧が中心を囲って、辺の膨らんだ多角形になる。直線で結べばただの正多角形だが、測地線は境界円へ向かって反り、辺が中心側へ凹む。q を変えると頂点に集まる枚数が変わり、辺の反り方も変わる。
各辺の測地線円を「鏡」として、別の測地線をその円で反転すると、辺の向こう側に写った測地線が出る。円反転は鏡の中心からの距離を 半径² / 距離² 倍に飛ばす操作で、円を円に写す。1枚の辺を鏡に選んで、中心タイルの残りの辺をその鏡で反転すると、辺を共有する隣のタイルの輪郭が向こう側に立つ。
太い円弧の束が、選んだ鏡の向こう側へ写った隣のタイル。鏡にする辺を順に変えると、写る先が中心の周りをぐるりと回る。反転で生まれる円弧は、必ずまた境界円に直交していて、隣のタイルの辺として収まる。
中心タイルの p本の辺を出発点に、各円弧をすべての鏡で反転し、新しく出た円弧をまた次の世代の種にする。同じ円弧(中心・半径が一致)はキーで弾いて重複を止める。境界に近づくほどタイルが小さく潰れるので、半径がごく小さいものは打ち切る。辺ごとの反転を全方向へ繰り返すと、円板が {7,3} の網で埋まる。
円板の縁に近づくほどタイルが無限に小さく潰れていく。中心の一区画を辺の測地線で次々に反転して増やすだけで、円板の内側が {7,3} の網で埋まる。
双曲面は無限に広いが、それを有限の円板に押し込むと、外周ぶんの面積が縁の一点に向けて際限なく圧縮される。境界に近いタイルほど見た目が小さく潰れる(双曲計量では同じ大きさ)。縁そのものは無限遠にあたり、どのタイルも縁には到達しない。
タイルを縮小しながら割り続けると、周期を持たないのに5回対称を宿す敷き詰めができる。ペンローズタイル。
ペンローズタイリングは、2種類のひし形(または鋭・鈍の黄金三角形)で平面を隙間なく敷き詰めるのに、決して周期的にならない非周期タイリング。作り方の一つがデフレーション(膨張・分割)で、各三角形を黄金比 φ の比率でより小さな三角形に割り、それを繰り返す。辺の長さの比に φ が現れ、5回・10回対称の局所構造を持つ。周期がないので並進対称はゼロだが、任意の有限パターンが図全体に無限回現れる(反復性)。1982年に発見された準結晶は、この非周期だが秩序ある構造を物質が取った例で、結晶学的制限定理の「例外」として2011年のノーベル化学賞につながった。
非周期は、分割(デフレーション)でも作れるし、隣接の制約でも作れる。Wang タイルは辺の色が一致しないと置けないという制約だけで、適切なタイル集合を選ぶと周期的には敷けなくなる。